ああ、驚いた、驚いた。
人生、幾つになっても驚きの種はつきないものだ。
「作庭記」という書物がある。
平安時代に書かれた世界最古の庭造りのテキストと云われる。
内容は寝殿造り庭園の形態と意匠に関するもので、全体の地割りから池・中島・滝・遣水・泉・前栽など細部から施工法に至るまで詳細に述べられている、そうである。特に立石に関しての項目が名高い。秘伝書であり職人が誰でも見ることの出来た書物ではない。
私もガーデンデザインに関心を持ってからその名前を知り、原書はともかくせめて解説書でも見てみたいと探したがこれが無いのであった。
「作庭記」の現代文翻訳書解説書がアマゾンでもブックワンでも見付からない。やっと1986年にNHKブックスで「作庭記の世界」(森蘊)が出ていることを知ったが既に絶版で入手不能であった。
あちこち探して静岡市中央図書館に見つけ、伊東図書館経由で借り出すことが出来た。2003年9月のことである。
しかし内容はあまりに古臭いというか高踏に過ぎ、私には近寄りがたいもので、詳しく読むこともなく早々に返却したのであった。自分たちがやっているガーデニングとは縁のないものと思われた。
この「作庭記」の日本語翻訳が無いというのに英語に翻訳されているのであった。2001年にTuttle Publishingから出ている。武居二郎氏(京都大学-日本庭園学会会長)とMarc Keane氏の共訳であるが実際に武居氏が訳したようだ。ハードカバー260ページで翻訳部分と解説が半々である。立派な本だ。こんな本が英訳されて出版されているのに驚いた。古文の原文を読むより英訳本の方が判り易そうだ。(帰宅後、2005年にさらに独訳が出ていることを知った)
しかし本当に驚いたのはそのことではない。
その本を見付けたのはニュージーランドのある家庭の書棚であった。
実は10年前にNZの女子高校生(当時16才)をAFSの留学生としてわが家に1年間ホームステイさせたことがある。その娘が結婚することになり式に出席するためにオークランドを訪問し、その家の書棚に「Sakuteiki」を見付けたのであった。
そしてその書物には30枚にもおよぶ付箋が付けられ書き込みがしてあったのである。
聞けば彼女の母親のMがオークランド大学の園芸講座を受講し、「Sakuteiki」のレポートを提出したのだという。
付箋や書き込みからみて大変な勉強ぶりである。そして「これは素晴らしい本だ。庭についての考え方が変わった。」と言う。
彼女は研究者やジャーナリストではない。ガーデナーとしても特に受賞歴などない普通の家庭の主婦である。
それがこれだけの勉強をするのである。まったく驚いた。
私は解説書を読み通すことすら出来なかったのに。05・12・31記
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浜松の植木屋さんで、「作庭記」の解説を連載している方がいます。
ブログ「大旨をこころふべき也」船越与市
http://niwashi.cocolog-enshu.com/2754/
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