黒潮丸のガーデン読書録

 

書名:前衛いけばなの時代  著者:三頭谷鷹史 出版社:美学出版
発行年月:2003 価格: 頁数:
読んだ理由:
 
読んだ日:03/5-05/3  
内容:

「花僧池坊専応の生涯」 澤田ふじ子 1986 中公文庫 980円
「空蝉の花池坊の異端児・大住院以信」 澤田ふじ子 1990 中公文庫 1000円
「天涯の花小説・未生庵一甫」 澤田ふじ子 1989 中公文庫 940円
「華術師の伝説いけばなの文化史」 海野弘 2002 アーツ&クラフト 2200円
「前衛いけばなの時代」 三頭谷鷹史 2003 美学出版 3000円
「華日記昭和生け花戦国史」 早坂暁 1989 小学館文庫 760円
「巨億の構造華道家元の内幕」 渡辺一雄 1986 光文社文庫 420円

この2年間に私が読んだ華道界に関する書物である。
ここに並べた順は扱っている時代順である。発行年は単行本としての初刊年であり、文庫本としての初出年ではない。
「巨億の構造」以外は現在入手可能である。「巨億」は古本で入手した。

ガーデニング&ガーデンデザインに関心のある私が華道の本を読んだのは、「茶会記」「立花図」への関心からであった。
年年歳歳花変わらず、歳々年々人同じからず、というが、実は花は変わるのである。庭の花、花壇の花は、その年の種苗の入手や気候や手入れによって種類も咲き具合も異なる。また連作忌避ということもある。ある時の花は、その時だけの花である。
ある客を迎えたオープンガーデンにどんな花が咲いていたか、これは記録すべきではないかと私は思った。
最初に思いついたのは「茶会記」であった。茶会は「茶会記」を残す。
客。床。釜。香合。花入。茶入。盆。茶碗。茶杓。会席−汁、刺身、めし、煮物、菓子・・。
茶道では大事な記録である。
そして「茶会記」から「立花図」に思いが至った。
「茶会記」「立花図」「ガーデン植栽図」はとりあえず置いておいて、これら書物の感想を書いておきたい。



「前衛いけばなの時代」 三頭谷(みずたに)鷹史
なんとなく「前衛いけばな」とは戦後の産物のように思っていたが、この書によると祖は1933年の「新興いけばな宣言」に求められるという。重森三玲が呼びかけ、宣言を発し、「日本新興いけばな協会」設立を目指したが、結局実現しなかった。
重森三玲は庭園史研究の重鎮であり造園家 でありいけばな研究家である。そして予定メンバー6人の中に若き日の勅使河原蒼風も入っていた。宣言草稿には、「懐古的感情を斥ける」「型式的固定を斥ける」「道義的観念を斥ける」「植物学的制限を斥ける」「花器を自由に駆使する」などの文言が入っていた。全体としてまさに革新的であり、「植物学的制限の撤廃」、「花器の自由」は前衛いけばなの本質となっていった。
新興協会は実現しなかったが重森三玲は1949年にいけばな批評誌「いけばな芸術」を発刊する。
・・・・・と続くのだが、著者はこれらの古典文献から当時の雑誌、週刊誌、いけばな草月などを丹念に読み込んで歴史を追ってゆく。きっちりと腰の据わった著述である。
そして関心の焦点を蒼風の彫刻家としての活動、海外での評価に当てていく。蒼風は1961年フランス・レジオン・ドヌール勲章受賞を始めとして66年には米・二十世紀博に「世界の彫刻家20人展」に招待される。三頭谷(みずたに)はこれらを蒼風に対し積極的に評価するが、国内のいけばな界はその頃から前衛の時代ではなくなっていくのである。
三頭谷(みずたに)は美術雑誌記者のジャーナリストでありこれまでにまとまった著作はないが、この著をもって美術評論家の一角を占めたのではないか。
それにしても小原豊雲、安達潮花などのその後を書かなかったのは逃げである。華道界に深入りすると本の売れ行きに障ると思ったか。

 

05年3月記)
 

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